絵本がくれた安心感

記事:小屋美香

 子どもの頃に読んでもらった絵本は、大人になってからも、心の故郷のように、どこかに残り続けているものなのだと強く実感したことがあります。

 もうずっと前のことですが、学生時代、私がアメリカに留学していた頃のことです。言葉だけでなく、新しい文化や価値観に触れる日々は、新鮮でもあり、緊張の連続でもありました。

 そんなある日、ふらりと立ち寄った本屋さんで、見覚えのある絵本たちに出会いました。

 世界中で親しまれている、あおむしやこざるのおはなし……。もちろん並んでいたのは英語版の絵本でしたが、その懐かしい表紙を見た瞬間、張りつめていた気持ちがふっと和らいだことを今でも覚えています。

 文字を全部読めなくても、絵を見れば情景が浮かび、幼い頃に読んでもらった時の空気や声まで思い出されました。絵本は、言葉だけで理解するものではなく、読んでもらった記憶や安心感ごと心に残っているのだと、その時初めて気づいたように思います。

 また、留学中には、絵本が子どもたちとコミュニケーションを取る大きな助けにもなりました。絵本を一緒に開くと、言葉が十分に通じなくても自然と笑顔が生まれます。

 さらに、日本に帰国してから、アルバイトでフランス人のお子さんのシッターをしていたことがありました。フランス語が話せたわけではありませんでしたが、絵本を真ん中に置くと、片言のやり取りでも自然とコミュニケーションが生まれていったことを思い出します。

 こうした経験から、絵本は国や言葉を越えて、人と人をつないでくれるものなのだと感じるようになりました。

 絵本には、その国ならではの文化や暮らし、人々の価値観も描かれています。読んでいると、その土地の空気や、大切にされているものが自然と伝わってくることも、魅力の一つだと思います。

 現在、私は保育者養成校で、認定絵本士養成講座の授業も担当しています。学生たちと一緒に絵本について学びながら、絵本が持つ力や可能性について、改めて考える日々です。

 子どもたちにとって絵本は、楽しいだけでなく、人とのつながりや安心感を生み、自分の世界を広げてくれる存在です。

 遠く離れた国の本屋さんで感じた安心感は、今も私の中で、絵本の力を信じる原点になっています。

 最後に、お知らせを一つさせてください。私が勤務する育英短期大学で、7月11日に「絵本の一日2026」を開催します。よろしければ、ぜひ遊びにいらしてください。

https://www.ikuei-g.ac.jp/college/news/2026/000972.html

絵本を通して、たくさんの笑顔が広がる一日になればと願っています。

絵本や紙芝居を通して伝えたいこと

記事:前徳明子 

私の幼い頃の絵本の記憶は、寝る前に毎日、父から読んでもらった「世界名作童話全集」(ポプラ社)でした。「今日は、どれを読んでもらおうかな」とワクワクしたことを今でも覚えています。

 そんな父は、高校の物理の先生でした。私が小学生になると父の口癖は、「本を読みなさい」になり、残念ながら、私は、本を読むことから遠ざかってしまいました。(今ならば、本をよむことの大切さがわかるのですが・・・お父さんごめんなさい)

 ということで、幼稚園教諭の頃の私が大好きだった絵本は、字のない絵本「スノーマン」

レイモンド・ブリッグズ(評論社)でした。繊細な色使いやカラフルな色からワクワク感が伝わってきました。「ゆきだるま」が少年の家で繰り広げる「あんなこと」、「こんな楽しいこと」、幻想的な場面などをシーンごとに子どもたちと想像しながら観て楽しむことのできる「スノーマン」が大好きでした。絵から自由な想像をめぐらせることのできる子どもたちとの幸せな時間でした。

 子ども達が幼稚園にいる間は、『安心して、楽しく過ごしてほしい』と常に考えていた私は、ある時、保育室を絵本の世界にすること(異空間を作ること)で、子どもたちが喜んでくれるのではないか、楽しく過ごせるのではないかと考えました。「スノーマン」の絵本の中で私が大好きな場面(スノーマンと少年の夢のような空の旅)を保育室の壁いっぱいに模造紙を敷き詰めて描いたことがありました。もちろん、子どもたちや保護者の方にも喜んでいただけたのですが・・・・・。壁面の範囲を大きく超えていたため、1週間くらいで、貼りかえることになりました(涙)

 その後、短大の教員になってから出会ったのは、児童文化財として絵本と同じくらい大切な紙芝居です。私が紙芝居の力を感じたのは、ベトナムの紙芝居「太陽はどこからでるの」チヨン・ヒエウ(童心社)の作品です。この紙芝居に出会ったのは、私が短大の教員になり、3~4年くらい経った頃でしょうか。責任のある立場を任されるようになり始め、みんなの意見を聴き、取り入れながら仕事を進めていくことの難しさを感じていた頃、悩む私に紙芝居を学んでいた上司が演じてくれたのが、「太陽はどこからでるの」でした。海に住むカニ、山に住むシカ、木の上で生活しているサル、それぞれが「太陽は、ここから出る」と主張しあう所から始まるお話です。まさに、自分のその時の仕事の状況と重なっていたのです。この紙芝居を読み終えた後、「あー、そういう事だったのか」と心から納得したことを覚えています。

 絵本も紙芝居もそれぞれ、作品の中に生きることのすばらしさや生きていくための知恵が入っています。それぞれの立場や状況で作品に出会うことにより、受け止め方も変わると思いますので、こうでなくてはならないという答えは、ないと思います。読み手や演じ手次第で聞き手や観客に伝わるテーマが変わるのもまた、作品の幅が広がって素敵です。

 まだあまり紙芝居と出会ったことのない方、また、紙芝居の演じ方がわからない方などへ朗報です。紙芝居の『共感の世界』のすばらしさに出会っていただけるイベントをご紹介させていただきます。

 2026年6月20日(土)、21日(日)埼玉大学で第28回紙芝居サミットが開催されます!

https://sites.google.com/view/kamishibaisummit2026

今回は、なんと、「絵を描く者からのメッセージ」、「世界に広がる紙芝居Ⅰ・Ⅱ」、「紙芝居の源流を探る」、「出版紙芝居について」、「語り継ぎと紙芝居」、「演じてこその紙芝居」、分科会「①外国のお話の紙芝居」、「②地域に広がる紙芝居」、「③次世代の子どもたちと紙芝居」と盛りだくさんの内容になっています。また、メインゲストの田島征三さんをはじめ、韓国、中国、インド、日本のゲストの皆さんが豪華です。このチャンスを逃さずに、是非、

早めに申し込んでください。特に、学生さんは、無料です!

絵本の絵を見るたのしみ

記事:古橋 和夫

 絵本は、絵を見る(読む)ことがたいせつだといわれます。

 そのことを教えられた絵本がありました。『てぶくろ』(ウクライナ民話、ラチョフ絵、内田莉莎子訳、福音館書店)です。

 森のなかで、おじいさんが、てぶくろを落とします。そこへ、くいしんぼねずみ、ぴょんぴょんがえる、はやあしうさぎ、おしゃれぎつね、はいいろおおかみ、きばもちいのしし、のっそりぐまがやってきて、「てぶくろ」の家に住みついていくという、みなさん、よくご存知のおはなしです。

 つぎつぎに現れてくる人物への興味、「てぶくろ」の家に入れるのかどうかという期待と不安、ページをめくってみると、みんな「てぶくろ」の家にすっぽりとはいっている驚きとおかしみがあります。

 画家のラチョフは、あたらしい人物が登場するたびに、てぶくろがだんだん動物たちの住み家になっていく様子を表現しています。床下をあげたり、はしごや扉をつけたり、バルコニーを築いたり、窓をつけたりしています。煙突からは煙まででています。部屋ではストーブが焚かれているのです。「てぶくろ」の家がだんだん小綺麗になっていく様子、生活が築きあげられていく様子が、絵によって表現されています。それは文章にはないことでした。

 また、人物たちは、民族性豊かな衣装を着ていて、性格や社会階層まで表現されています。彼らは、「てぶくろ」の家で出会う前は、森のなかでばらばらの人生を送っていたことでしょう。このような人物が「てぶくろ」の家で一緒に暮らしはじめるのです。「てぶくろ」の家は、ひとつの社会を象徴しています。

 また、『おおきなかぶ』(ロシア民話/A.トルストイ再話、内田莉莎子訳、佐藤忠良画、福音館書店)にも、面白い絵があります。ねずみが来て、かぶを抜く場面です。絵をよく見ますと、かぶが斜めになり、今にも抜けそうになっています。前の場面の絵とは対照的です。力が弱いと思われているねずみが来て、おおきなかぶが抜けるということを絵が表現しています。

絵が、絵本の世界のイメージを広げ意味を深めています。絵本の絵を見ることは、絵本の読む楽しみのひとつです。